ネコスキーの日記

お題募集による掌編小説 Part1「看板娘」

第一回は、ぽむ太さんから頂いたお題、

「看板娘」

です。






タイトル:恋せよ叫べ、看板娘!

「はぁ~ぁ……暇ねぇ」
 閑散とした店内で、真由美がテーブルの上に足を投げ出してため息を吐いていた。
「……お前な、テーブルの上に足置くなよ、はしたない。つか、バイトなんだから掃除くらいしろよ。店番任されてんだし」
 呆れ顔で注意するのは、本日のこの店の責任者、滝沢彰二。本来の責任者である滝沢雄一は、彰二と真由美に店番を押し付け、何処かへと出かけてしまった。
 彰二に注意された真由美は、鼻で笑いながら答える。
「って言ってもねぇ……お客さんなんて滅多に来ないんだし、店番も何もないじゃない。今日はお店閉めちゃってもいいんじゃないの? どっか遊びに行こうよ」
 真由美の言う通り、昼時の定食屋だというのに、店の中には客の一人もいない。
 都心の定食屋にあるまじき姿である。
 それもこれも原因は、彰二の兄である雄一にあった。
 雄一の料理は、単純に言えば劇的に不味い。解りにくく言えば、雑食性のエイリアンも卒倒な不味さである。
 天才的な不味さの噂は瞬く間に広がって、この店はめでたく商店街脱落店の最有力候補の名を欲しいままにしている。
「彰二も、いつまでもお兄さんの肩持ってあげなくてもいいじゃん。私達高校生なんだしさ、こんなとこで青春の無駄遣いしてる場合じゃないわよ」
 あけすけにものを言う真由美に、少しだけムッとした彰二が口を開く。
「別にいいだろ。大体、ここでバイトしたいってお前から頼んできたんだろ。イヤになったんなら、いつ辞めていいんだぞ」
「えっ……や、それは、その」
 辞めていいという言葉に、真由美がうろたえる。
「大体、お前そんなに文句言ってるくせに、休日までここでバイトしてんじゃねーか。青春の無駄遣いじゃなかったのかよ」
「やっ、だってほら、やっぱ遊ぶにしてもお金はいるわけじゃない? お小遣いだけじゃロクに遊べないしぃ」
「うちの店、時給500円だぞ」
 最低賃金の基準すら無視した待遇である。しかし、この店の経営状況では、それも仕方のないことかもしれない。訴えられたらほぼ確実に負けるが。
「ほ、ほら、社会勉強っていうか、潰れゆくお店を間近で見る絶好の機会っていうか」
「さらっと失礼なこと言いやがったな」
「そ、それにお店には、可愛い看板娘は必要でしょ?」
 実際に可愛かろうと何だろうと、自分で言っては台無しである。第一、可愛い看板娘がいたところで、客がいないのでは仕方ない。
「可愛い看板娘は、『へらーっしゅ!』とか雄叫び上げて客を迎えたりしないもんだと思うぞ」
「……それは、珍しくお客さん入ってテンション上がったからというか」
「……お客さん、ドン引きしてたよな」
 その時の惨状を思い出してか、二人きりの店内に気まずい沈黙が流れる。
「ま、それはそれとして」
 気を取り直して、彰二が口を開いた。
「この調子じゃ、店番は俺だけで充分っぽいしな。真由美はもう上がっていいぞ」
「……えっ? 彰二は? 行かないの?」
「さすがに店空っぽにするわけにもいかないだろ、定休日でもないのに」
「で、でもでも、一人で遊びにいったってつまんないし、彰二も行こうよ。どうせお客さんなんか来ないよ」
 失礼な事実を率直に述べる真由美だったが、長い付き合いである彰二はあまり気にしない。
「もしかしたら、ってこともあるだろ。この店のこと知らない旅行中の人とかが来てくれるかもしれないしさ……。ってか、なんでいつも俺ばっか誘うんだよ。学校の友達とか誘えばいいだろ」
「えっ……」
 そう言われて、真由美の頬が急に赤く染まる。
「だ、だって、それは」
 俯き加減で、もごもごと口ごもる真由美。
 何を言おうとしているのか、と返答を待つ彰二。
「わ、私は、彰二のことが……」
 長い長い一呼吸を置いて、真由美がようやく口を開いた……と同時に、店の扉が開いた。
「こんちわー……お、彰二くん、真由美ちゃん……雄一は、いない?」
 若干隠れるようにして現れたのは、近くの会社で働いている理香子だった。
 この店が開業するより少し前からの付き合いで、彰二達とも面識がある。
「ええ、今なんか、出かけてて……」
「おっ、そりゃ助かるわ! 皆ー、今日は当たりの日よー、彰二くんデイよー」
 実のところ、兄の雄一とは違い、彰二の料理は美味い。解りにくく言えば、料理を食べた瞬間、なぜか空を飛んでいるかのようなイメージが浮かぶ美味さである。
「お邪魔しまーす」
「私、オムライスで!」
「私は~……焼き魚定食!」
 慌てて注文を取るが彰二とは対照的に、真由美は呆然と突っ立っていた。
「…………」
「おい、真由美! 注文取って、水出して!」
「……へ」
「へ?」
「へらーっしゅ! チクショー!」
 この店自慢の看板娘が、雄叫びを上げながら鬼神のごとく働き始める。
 若干ドン引きしている客もちらほら見えたが、真由美は気にしていない(少しだけ涙目のようにも見えるが)
 こうして、お店はたま~に少しだけ忙しい一日を終えながら、明日も経営不振の荒波と戦い続けるのであった……。

―完―


 第一回はラブコメになりました。

 2000字以内ということで、兄を登場させる余裕がなかったのが割と残念です(?)

 お題くださったぽむさんに感謝しつつ、第一回はこれにて終了!
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by necosuky | 2007-09-02 19:26 | 掌編小説
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