お題募集による掌編小説 Part4「悲しみ」「現在」「正直になれない自分」
第四回は、セインさんから頂いたお題、
テーマ「悲しみ」 時代「現在」 内容例:「正直になれない自分」 です。 タイトル: 一人じゃないから 「何か怒ってない?」「いっつも機嫌悪いよね」「俺、嫌われてる?」 私がよく言われる言葉。 当たり前のことだけど、私は生まれた時から、こんな無愛想な人間だったわけじゃない。 子供の頃は、多分だけどそれなりに笑ってたと思う。だけど大人になっていくに連れて、自分の表情や感情を、素直に示すことが出来なくなっていた。 今ではもう、仏頂面は私のステータス。私といえば、いつも不機嫌な事務員。そんな印象しかないと思う。別に、それが悲しいなんて思わない。 しょうがないじゃない。だって、素直に笑う方法なんて、忘れてしまったんだから。 「あ、あ~……真山くん、ビール注いでくれるかな?」 「そこにあるんだから、自分で注いだらいいじゃないですか」 休日前の飲み会、部長の要求を突っぱねて、私は自分のグラスを豪快に傾ける。 部長は、はあ、と短いため息をついて、他の若い社員に話しかけた。 こういう場所は、すごく苦手。 愛想よくなんて出来ない私は、皆が騒いでいるこの雰囲気の中で、どこか孤独だった。 だからって、部署の全員が参加している飲み会を欠席するのは、協調性がないのにも程があるだろう。 ……といってもこんなんじゃ、参加してないようなものかもしれないけど。 「薫センパ~イ、グラス空いてますよ~」 気の抜けるような猫なで声で話しかけてきたのは、後輩社員の赤坂祐子。 誰に対しても人懐っこく、いつもにこにこ笑っている、若くて可愛い部署内のアイドル的存在。 だけど私は正直、彼女のことがなぜか気にくわない。 彼女が新人だった頃、私がその教育係を任された。 だけどコイツときたら、その時からずっと私のことを名前で呼んでいる。 馴れ馴れしいにも程があるっつーの……。 「私は勝手に飲んでるから、あんたは他の人の相手でもしてなさいよ」 「え~……」 赤坂は不満顔をするけど、すぐに他の上司からお呼びがかかったらしい。 私と違って、赤坂は気のいい返事をしながらビールを注いで回っている。 私もあんな風に、笑って人と接することが出来たら……なんて思うのは悔しいから、そんなことは考えないことにした。 「って……終電逃した……!」 飲み会が終わった帰り道、ふらふらする頭を押さえながら時計を見てみると、今まさに終電が出る時間だった。 ここから駅までは走って五分……タイムリミットは……三十秒くらいかな? ……間に合うわけないじゃない! あーっ、もぉー! 「最悪っ!」 ……って、今のは私の声じゃない。 「あれ? センパイ! 薫センパ~イ! センパイも終電逃しちゃったんですかー? 私もなんですよー!」 赤坂だった。馴れ馴れしく私の腕にじゃれつきながら、酒臭い息を吐く(私も酒臭いだろうけど) 「じゃあ二次会いきましょうよー、二次会!」 「え~……なんでアンタと」 「そこの公園でっ!」 しかも公園でかよ! なんてツッコム暇もなく、私は赤坂に引っ張られていった。 深夜の公園で女二人って、結構不用心かも……まぁ、すぐそこにコンビニもあるし、大丈夫か。 「ちょっとセンパイー? 全然飲んでないじゃないですかー」 けたけたと笑いながら、赤坂が缶チューハイを飲み干し、二本目に手をかける。 この子、結構酒癖悪いわね……。 「あー、楽しいですねーっ、センパイー」 「……別に楽しかないわよ」 ぐいっ、と缶チューハイを飲み干して、私は吐き捨てるように呟いた。 「ダメですよセンパイ~。もっと楽しそうにしないとー」 「そんなの、私の勝手でしょ」 「せっかく美人なのに、愛想ないのもったいないですよー」 酔っ払いの冗談のように言われても、全然嬉しくない。 絡み上戸かこの子……。 「そんないっつも仏頂面してると、そのうち笑い方忘れちゃいますよー?」 ……あ、今のはちょっと……いや、かなりカチンときた。 「笑い方なんて、もう忘れてるわよ」 「……え? センパイ?」 「仏頂面結構よ、何が悪いの? そうよ、機嫌悪いのよ、いっつもね。放っといてよ、笑えないのよ、あたしは」 「せ、センパイ? あ、あははー……だ、大丈夫ですか?」 場を取り繕うかのような赤坂の笑いが癪に障って、私は堪え切れなくなった。 「アンタみたいに何にも考えず、いっつもへらへら笑ってらんないつってんのよ!」 酔った勢いで、思いっきり叫んでしまった。 赤坂は、びくりと身体を一度震わせて、俯いてしまう。 その肩は小刻みに震えていた。ヤバイ、泣かせちゃった……? 「……何にも考えずって、何ですか」 「へ? あ、赤坂?」 「私だって、好きでへらへら笑ってるわけじゃないわよ!」 弾けるように、赤坂が声を張り上げた。 「お茶くみはいっつも私の仕事! かっ……課長のセクハラだって、ウザいし! 飲み会だって、さっきだって私ばっかお酌させられてっ……」 赤坂の目尻には、うっすらと涙が滲んでいた。 「へらへら笑ってって……だって、だって……そんなのっ……」 赤坂からは、いつものような人当たりのいい表情は消えていた。 涙が彼女の頬をつたって落ち、彼女の膝をぽつりと濡らす。 「しょうがないじゃない! 他のやり方なんて、忘れちゃったんだもん!」 そう叫んだ直後、赤坂が泣き声を上げる。 「う、うぇ……」 「赤坂……」 ……あぁ、そっか、この子も私と同じなんだ。 自分に正直になれなくて、仕方ないなんて割り切っても、本当は心の中で、ずっとずっと悲しかったんだ。 「うぇぇ……!」 正直になれない自分のことが、こんなに悲しかったんだ。 「……うっ、ふぇ……」 やだ、私まで、こんなとこで泣くのなんて、格好悪いのに、なんで……。 「ふぇぇん……」 堪えられなくなって、私もついに泣き声をあげてしまった。 年甲斐もなく、まるで子供のように泣いていた。 深夜の公園に酒臭い女が二人、年甲斐もなく泣きじゃくっていた。 互いに目を真っ赤に腫らしながら、泣き疲れた顔を見合って、私達はなんだか可笑しくなって笑いあった。 こんな風に笑うことなんて、随分と久しぶりのような気がした。 でも、こういうのは全然、悪くないと思う。 「……ねぇ、赤坂」 「……なんですか? 薫センパイ」 「今日、なんか用事ある?」 久しぶりの休日を公園で迎えるなんて、本当は最悪の気分になるはずだったのに。 「全然ないです。私実は、けっこー寂しい女なんですよー」 「おー、そーかそーか」 なぜだか、私達の気持ちは晴れやかだった。 「んじゃ、こんな公園じゃなくって、まだ開いてるお店探すわよ!」 「おーっ! 今日は朝まで飲みましょー!」 自分だけが悲しいんじゃない、辛いんじゃない。 同じように悩んで苦しんでる、仲間がいるんだから。 「戦う女達にー!」 「カンパーイッ!」 私達はきっと、一人じゃないんだ。 ―完― 第四回は、現代風小説になりました。 自分では割とこういう話が好きなんですが…まぁコメントは控え目にします(・w・ お題くださったセインさんに感謝しつつ、第四回はこれにて終了!
by necosuky
| 2007-09-08 19:47
| 掌編小説
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