ネコスキーの日記

お題募集による掌編小説 Part6「出会いと別れ」「未来・過去」「時代移動モノ?!」

第六回は、はるさんから頂いたお題、

テーマ「出会いと別れ」 時代「未来・過去」 内容例:「時代移動モノ?!」

です。





タイトル: 僕に出会って


 今日は、平成19年9月12日……だったはず。
 僕は大沢春雄、昭和57年生まれ、今年で25歳になる。間違いない。
 でも、今僕がいるのは昭和64年3月31日、ちょうど平成元年に変わる年だった。
 その事に気づいたのは、桜が満開に咲いていた事と、年号が平成に変わったころには公園になっていたはずの場所に、当時は近所でもお化け屋敷のようだと評判だった家が、当時の趣きもそのままに建っていたのを見たからだった。
 それから昔よく行っていた近所の本屋に駆け込んで(この本屋も、改装前の汚れが目立つ本屋に戻っていた)カレンダーを確認して、今に至る。
 漫画や小説でよく見る、タイムスリップというやつだろうか。
 なんでこんなことになったんだっけ……。
「……ぶぇっくしょい!」
 若干濡れ気味の身体が冷えてきたことで、ここへ……この時代へ来る前の出来事を思い出した。
 確か……そう、会社帰りに神社の裏にある古池を眺めて、その日の失敗で上司に怒られた傷心を苦に入水……なんてことはなく。
「古池に……僕が飛び込む水の音……なんてね……」
 そんなことを呟いてから帰ろうとした時……足を滑らせて池に落ちたんだった。
 ……我ながら、間抜けだなぁ……。
 そんなことより、どうやったら帰れるんだろうか。
 池に落ちたせいで来たんだから、帰る時も池に飛び込むのかな……。
 ……もっと過去にいったら、どうしようか……。
 そんなことを考えながら懐かしい道を歩いていた僕の足元に、野球ボールが転がってきた。
「すいませ~ん、ボール取ってくださ~い」
 遠くで手を振っている少年に、ふと既視感を覚えた。
 どこかで見たことがあるような顔だけど、頭の中にもやがかかったように思い出せない。
 僕は足元に転がっていたボールを拾い、少年に投げ返してあげた。
 お礼を言った少年は、くるりと向き直って、空き地の壁に向かってボールを投げ始める。
 その空き地のことを、僕は思い出した。それと同時に、少年が誰なのかも、思い出した。
 彼は、子供の頃の僕だ。野球が大好きだった、少年時代の僕だ。
 幼稚園を卒業して、小学校の近くまで引っ越してきたばかりだった僕は(親の都合とかもあったらしいけど、はっきりとは覚えていない)、友達もいなくて、一人でああして空き地で遊んでいたんだった。
 彼と話をしてみたくなった。僕は躊躇いながらも、子供の僕に話しかけた。
「ねぇ……キミ、野球好き?」
 急に話しかけられて、子供の僕は不審な表情を見せていたけれど、短く返事をしてくれた。
「……うん」
「そっか……」
 ……話しかけてから考えるのもなんだけど、僕は子供の頃の僕と、何の話をしたかったんだろうか。
 子供の頃からだけど、こういった無計画さが、大人になってからも僕の首を絞めることになる。
 とにかく勢いに任せて話を続けないと、明らかに不審者扱いされるだろう(もう手遅れかもしれないけど)。
「将来の夢は、プロ野球選手?」
「うん、そうだけど……おじさん、なんで知ってるの?」
「え? あ、ははは……いや、お兄さんも子供の頃、野球好きだったからさ、同じなんじゃないかと思ってね」
「おじさんも、野球好きだったんだ」
 ……おじさんと言われるのは、仕方ない。これくらいの子供から見たら、大人は皆おじさんだし。
「うん、プロにはなれなかったけどね」
「そうなんだ……じゃあ僕が、おじさんの分まで頑張ってあげるよ」
 その言葉に、僕の胸は少しだけ苦しく締め付けられた。
 僕は、彼の夢の結末を知っている。
 彼はこれから何年か後に、少年野球のチームに入る。
 小学校を卒業するまで、彼は補欠で、負け試合で一度だけ代打にたって、内野ゴロで終わる。
 中学校では野球部に入らなかった。でも高校では、なぜか再び野球をしたくなって、弱小ながらもチームで甲子園を目指した。
 三年生になってようやくスタメンを獲得し、僕のチームは……地区予選の一回戦で敗退した。
 僕の少年時代からの夢は、そこで終わった。
「……キミは……」
 僕は、何を言おうとしているのだろうか。
 キミの夢は叶わないよ。辛い思いをするだけだから、やめたほうがいいよ。
 ……大人になったキミは、毎日毎日好きでもない仕事をしながら、上司に頭を下げて生きているよ。
 そんなことを彼に言って、何か意味があるのだろうか。
 でも僕は、思い出していた。
 引っ越して間もない頃、一人寂しく近所の空き地で壁とキャッチボールをしていた時、不意に話しかけてきた自分のことを「お兄さん」と呼ぶ、少し濡れた服を着ていた「おじさん」と出会ったことを。
 その「おじさん」は、どこか寂しそうに笑いながら、
「頑張ってね、応援してるよ」
 そう言って、去っていった。


 僕は、子供の頃の僕に出会えて本当によかった、そう思っていた。
 大人になった僕は、ヘマばかりやらかして、毎日毎日怒られて、不満だらけの中で生きてきた。
 こんなはずじゃなかった、もっと別の未来があったはずだ、そんなことを夢想しながら、日々に愚痴を零しながら過ごしていた。
 そんな僕はきっと、これっぽっちも成長していなかったんだと思う。
 子供のままで、これれまで頑張って夢を追いかけてきた自分に、甘えていたんだと思う。
 夢は叶わなかったけれど、僕はこうして大人になって、今を生きている。
 辛いことや苦しいことばかりだけど、たまに嬉しいことがあったりして、ちゃんと生きているんだ。
 僕は過去へ来て、少年時代の自分と出会い、そして子供だった僕に別れを告げて、本当の意味で大人になれたんだと思う。
 そう思っていいんだ、きっと。


 神社の裏にある古池は、僕がいた時代と全く変わらずそこにあった。
 何となく幻想的な雰囲気で、あの時代でも、なぜか僕はこの古池の魅力に心惹かれていた。
 さぁ、後はここに飛び込んで……本当に、帰れるんだろうか。
 ……ここまで来たんだ、これしか思いつかないし、覚悟を決めよう。
 それじゃ、3,2,1,0で飛び込もう……。
「……3!」
「はい?」
 背後から、小さく高い声が聞こえてきた。
 慌てて振り返ると、そこには白い上着に袴を身につけた、いわゆる巫女さんといった感じの人が、箒を持って立ち尽くしていた。
「……あ」
 慌てて振り返ったせいか、僕は足を滑らせて古池に……ってちょっと待った、まだ、心の準備が……。
「ああ~っ!」
 古池に、僕が飛び込む水の音……なんてね……。


「ああ~っ!」
 叫び声を上げながら、僕は尻餅をついて公園に投げ出された。
 ってあれ? ここの公園は……。
「あっ、あれ? えっ?」
 服がずぶ濡れになっていることも気にせず、公園の名前を確かめる。
 間違いない、この場所は、過去にはお化け屋敷だったあの場所だ。
 ということは、つまり……
「やったー! 帰ってこれたー!」
 年甲斐もなくはしゃいでしまった僕を、子供連れの奥さん方の痛いものを視るような視線が突き刺した。
 そそくさとその場を離れ、鼻歌交じりに帰途につく。
 不思議な出来事だったけど、僕の心は晴れやかだった。
 また機会があったら、あの神社にいってみようかな……。
「……って、あれ?」
 僕が立ち止まったのは、見覚えの無いコンビニエンスストアの前。
「こんなとこに、コンビニなんてあったっけ……」
 なぜだか背筋が冷たくなって、コンビニエンスストアに入っていく。
 店員は服が濡れている僕を見て嫌そうな顔をしたけれど、こっちはそれどころじゃない。
 本のコーナーにやってきた。
 見た事もないタイトルの雑誌、いつの間にか進んでいるコミックの巻数、そしてカレーンダーを見て、僕は大変な事実にようやく気づいた。
「……行き過ぎるとか、そんなんアリっ!?」
 ……今度は、未来の自分にでも会いに行ってみようか。


―完―


かなり悩んだ果てに、こういう小説になりました。

時期的にも「時をかける少女」ばかりが頭に浮かんでましたからね…(-ω-;)

正直私は子供の頃、特に野球が好きだったわけでもないので、主人公の過去とかこんな感じでいいんだろうか…とか考えてます。

そして巫女さん、結構無理やりだけど登場させたぞー!どうだはるさーん!(ぇー

お題くださったはるさんに感謝しつつ、第六回はこれにて終了!
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by necosuky | 2007-09-12 19:34 | 掌編小説
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